人々の生活圏を舞台にした健全な地域社会づくりに貢献する薬局、コミュニティファーマシーを創造する
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■ 2020年4月6日ドイツの薬局開設者アッセンハイマー慶子氏からの「新型コロナウイルス感染拡大阻止最前線」報告

 

日本でも新型コロナウイルス感染が拡大しています。日本ではダイヤモンド・プリンセスの乗船者の感染による第1の波に対応しているときに、欧米では感染が急拡大していきました。そして今、日本でも第2の波が来ています。

 

世界の中でドイツは新型コロナウイルス感染症の死亡率が少ないと言われ、ドイツの医療提供体制やかかりつけ医のことが時々ニュースにもなっています。

いままで、コミュニティファーマシー協会では、ドイツ薬学視察旅行を通じてドイツの医療制度、そして完全医薬分業で街の中に根付いているドイツの薬局を見聞きしてきました。そしてアッセンハイマー慶子氏は毎年コミュニティファーマシーフォーラムでドイツの医療制度や薬局のことを講演してきました。

今、ドイツは新型コロナウイルス感染に関しては日本の先を行っています。そのドイツの薬局の奮闘記をアッセンハイマー慶子氏が送ってくれました。

日本もコミュニティファーマシーとしての対応策を考えていきましょう。準備が必要です。そしてこの国難を乗り切っていきましょう。


 

新型コロナウイルス感染拡大阻止最前線

3月初め、遠いアジアの出来事で対岸の火事だった新型コロナウイルス感染症は、3月2週目を迎えドイツ国内でも感染拡大に歯止めがかからない深刻な状況になりました。3月末現在も感染者数が数日以内に倍増しています。

 

 

感染予防用品が足りない!

ドイツでは、手の消毒液、マスク、使い捨てのゴム手袋が、ほぼ完売状態で、薬局へは2月中旬で入荷できなくなりました。医院だけでなく、会社や商店、個人からも製品在庫に関する問い合わせがひっきりなしです。消毒液やマスクを法外な価格で販売する悪徳業者があり、憤懣やるかたなしです。事態を予測して少しずつ在庫を増やしていた医院や薬局は、まだ、なんとか持ちこたえていますが、この先、製品が入ってこなければ、診療・営業ができないところもでてきそうです。

Biocides RegulationというEU法により、手の消毒用アルコール液の製造・販売には複雑な規制がかかっていました。原料さえあれば薬局で消毒用アルコールは調合できますが、これを手の消毒用と明記して簡単に販売できない規則です。メーカーの製造量が需要をカバーできない緊急事態となり、同法が緩和され、次の3つに限り、今年の8月31日まで薬局で調合・販売が可能となりました。

 

  1. エタノール 70もしくは80%(V/V)
  2. イソプロパノール 70%(V/V)
  3. WHO推薦レシピ2:

 

                容量換算    重量換算                    

   イソプロパノール99.8%   75.15mL            59.03g

   オキシフル3%                 4.17mL            4.22

   グリセリン98%             1.45mL            1.83

   精製水で全量             100.0mL もしくは 87.08g に調製   

 

グリセリンを加えて手の乾燥を防げ、しかも安価で調合・販売できるので、WHO推薦レシピ2を多くの薬局が採用しているようです。当薬局でも調合し、100mLと50mLの瓶に小分けし1人1瓶限定で販売しています。原料のアルコールや瓶は品薄で、在庫や入手できるものを全て利用しています(写真1と2)。

 

 

薬局スタッフへの感染予防対策

各州の薬剤師組合(日本で言う都道府県薬剤師会にあたります)からは、毎日、感染阻止関連ニュースがメールで入ってきます。スタッフへの感染予防に、マスクや使い捨てゴム手袋の着用が奨励されています。先に爆発感染拡大を起こしたイタリアで働く1薬剤師が、薬局内における防備として、レジと来局者との間に飛沫感染予防用のアクリルガラスのついたてを置くことを勧めていました。薬剤師・薬局向けのサイトで紹介されたこともあり、導入が進んでいます。このようなものをどこで作ってもらえるのかしら、今すぐにでも必要なものなのに、工務店に作成を依頼したら何日くらいかかるのかしらと、調べてみたら、既に完成品を販売している会社がありました。金曜日に注文したら月曜日には早速届きました。幅60cm X 高さ90cmのものが標準サイズです(写真3 左:横から撮影、写真4 右:レジ内側から撮影)。

 

 

咳止めシロップのメーカーから販促用にと、たまたまカゼのシーズン前にいただいた消毒用スタンドが大活躍しています(写真5)。新型コロナウイルス騒動が始まる前、これを利用する来局者はほとんどいませんでしたが、現在は、使わない来局者がいないくらいです。

マスクやゴム手袋も使用し始めました。しかし、マスクも現在完売状況です。買い置きの在庫を使い切ってしまうまでに注文品が届くことを願います。抗がん剤治療中や高齢者で感染の危険が高い人が、治療目的で病院に行けるよう、必要最小量をお渡しすることがあるので、早く供給可能にならないかと心配する毎日です。インフルエンザの流行時や花粉症用にマスク需要の多い日本とは違い、冬でも春でも外出時にドイツでマスクを使う人は、ほとんどいません。マスクを製造販売していた会社も限られていました。そこへ、この急激な需要増です。これまでマスクなど作っていなかった会社も急遽、生産ラインを変更し、対応にあたるところが出てきていますが、なかなか生産が追いつきません。

 

マスクを作ろう!地域連携作戦

なんとかならないものかと思っていたところ、紙ナプキンを利用してマスクの作り方を紹介する動画がネットに出ていたのを見つけました。試しにこしらえてみたら、顔にうまくフィットします。カラフルなマスクができ、しかも作って非常に楽しい!(写真7)

 

どれだけ予防効果があるかはわからないのですが、なくて途方にくれたり、遠方の薬局まで片っ端から電話で問い合わせ、どこにもなくて不満をつのらせたりするよりは、ましかもしれません。学校や幼稚園は閉鎖、職場ではホームオフィス業務を勧めている上、復活祭休暇が終わる4月中旬まで、不要不急の外出自粛です。子供たちは自宅で退屈しています。大人と子供が、自宅でマスク自作の時間を過ごすのもよいかもしれない。マスクのDIY法がネットで紹介されていることを、より多くの人々に知ってもらうことはできないかと、早速、近くの地方新聞編集部に掛け合ったら、記事にしてもらえることになりました。個人でマスクを作って提供し、さらには協力者をネットで募っている方がこの町にはいて、その方の連絡先も掲載されました(写真8)。

 

多くの反応があり、材料の提供や作業の手伝いを申し出る人が出てきたそうです。隣国オーストリアでは、すでに外出時のマスク着用を義務付けています。ドイツでも同じ規則となれば、マスクがないと外出できません。入手できなければ、自分で作るしかない!祖母が生前「戦時中は物不足で、身近にあるものでいろいろなものを作った。食料難だったので毒にならない野草はなんでも食材にした。」と、言っていたのを思い出しました。履物店を経営していた家でしたが、下駄や草履を仕立てるとき、鼻緒からでてくる端切れを集めておいて、アップリケをつくって店に並べておいたら、女子学生が喜んで買っていったという話もしていました。学生時代は、きれいなもの・かわいいものに一番憧れる年頃なのに、そういうものをふんだんに手に入れることができなかった時代があったことを祖母はよく嘆いていました。

と、書いているうちに新聞記事を読んだ地方ラジオ局が取材に来て、活動をひろめてもらうことになりました(写真9)。非常時に薬局がギブ・アップしては、地域の住民が困ってしまいます。ドイツ薬局の反乱と地域連携は続きます!

https://www.swr.de/swraktuell/baden-wuerttemberg/tuebingen/artikel-mundschutz-herstellung-corona-rottenburg-am-neckar-100.html

 

 

 

慢性的な医薬品不足にさらに拍車をかけた新型コロナ感染

不足しているのは医薬品もそうです。2016年くらいから、品薄・品切れになる医薬品数が増えてきました。ドイツでは、長年の厳しい価格政策により、生産コストの低い海外での生産、海外からの原末輸入を余儀なくされたメーカーが増えた結果、品質問題、原末メーカー数の減少による原末不足やそれにともなう価格高騰などで、需要と供給のバランスが崩れています。いつロックダウンが起こるかわからないと、早めに多めに医薬品を処方してもらいたい患者さんで、3月初めから医院も薬局も大忙しです。来局者数はどこも約50%増といわれており、大忙しとなりました。急に需要が増え、医薬品不足にさらに拍車がかかっています。また、アセトアミノフェンの原末生産国が輸出を控えるというニュースがどこからか流れ、焦った薬局が在庫を増やそうと大量注文し始め、数日後には全アセトアミノフェン製剤が卸で完売となる事態が起きました。メーカーでは完売状況か、後での供給維持のため流通をストップしています。この状況を重く見たドイツ政府は関係部門へ通達を出し、重要医薬品に関しては流通調整を促し、これまでの販売統計に見合った量をメーカー→卸→薬局へ販売するようにさせています。薬局で在庫がなくなり、多めに注文しようとすると、製品によっては月ぎめ限定数を超えてしまっており、配送ストップが卸より出ます。L-チロキシン、ベンラファクシン、ドキセピン、イブプロフェン、メトフォルミン、抗菌剤や降圧剤の1部などなど。剤形やパッケージサイズまでカウントすると当薬局では100種類以上の医薬品が入荷待ちとなっています。注文量・在庫量調整では、これまでにない繊細な配慮と素早い判断が必要になってきており、薬局の仕事は増えるばかりです。

 

足並みの揃わないドイツ連邦州

健康に関する条例は各州の権限において定められます。そのため、感染阻止対策もドイツでは各州で異なり、足並みが揃わないことがあります。不要不急の外出自粛条例を1番初めに出したのは、ミュンヘンが州都のバイエルン州です。当バーデン・ヴュルテンベルク州では、3月中旬から、日常生活に最低必要なものを扱う例外業種以外、一般商店の休業が始まりました。復活祭前のこの時期、クリスマスと並び売り上げの伸びる重要な時期に休業です。年間売上高に大きく響きます。外出自粛も始まり、家族を除きグループ行動ができなくなりました。店内や路上では他の人と最低1.5mの間隔を空けるように定められました(写真10)。お互いに手を伸ばして手が触れない距離です。

 

 

薬局だけは必ず開いている

薬局は、この緊急事態時、営業してよい例外業種に入るどころか、勝手に休業することは法律で許可されていません。商店休業法(Ladenschlußgesetz)により、キリスト教の礼拝日である日曜日や祝祭日だけは、当番薬局以外営業してはいけないことになっていましたが、感染拡大でも充分な医薬品供給ができるよう、希望する薬局は12-18時に限り日曜日も営業してよいことになりました。完全医薬分業により、医療用医薬品を病院・医院や患者さんへ渡せるのは薬局だけです。医薬品なくして医療は成り立たず、場合によっては人の命に関わります。ドイツ薬局の供給を切らさない懸命な努力が続きます。多くの商店が休業中で、町が閑散としています。来局者の中には、「薬局だけは、どこも開いていてホッとしています。この大変な中、私たちのために仕事をしてくださって有難うございます。元気で頑張って下さいね。」と、ねぎらってくださる方もいて、思わず目が潤んでしまいます。この言葉、薬局バッシングの吹き荒れた2004年に聞きたかったなあと思いました。

 

加算報酬となった配達料

高齢者や病人に外出を避けてもらうため、薬局が処方箋に基づき医薬品を自宅へ届ける場合は、1部の保険が配達料を支払ってくれることとなりました。1配達あたり2ユーロの請求が事態終息まで可能になりました。近隣の医院からは、FAXで処方箋が送られてきます。外出を嫌い、薬局へ行くことを避けたい患者さんは、処方箋の写真をメールで送ってきます。配達準備業務も増え、薬局ではバタバタ状況が続いています。

 

この新型コロナウイルス緊急事態で、復活祭気分は吹っ飛んでしまいました。早く事態が終息してほしいものです。

日本の同僚の皆さん、どうぞ健康に留意され、元気にお仕事を続けてください。

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